要旨:谷崎は新人作家として華やかに文壇にデビューした。彼の作品の中に現れている「美」の世界は文壇に鮮やかな衝撃を与え、従来の日本文学にはあまり見られなかった異質な主題であった。谷崎は、大正期の作品では「強者としての美」に全く触れなかったが、昭和期になると日本回帰とともに「美しいものは強者である」という世界を再び描いている。その世界がよくわかる作品は「春琴抄」である。谷崎は、春琴という女性を造形し、「強者」としての女性美を描きながら、日本回帰を試みた。「春琴抄」をめぐり、そうした美意識の顕現を人物の描写の内容、物語の背景及び言語から把握する。また、谷崎にとっての日本回帰と作品の中の西洋的なものと比べながら谷崎文学の根底について述べていく。
キーワード:日本回帰;陰翳美;関西移住;視覚喪失
中文摘要:日本唯美派代表作家谷崎润一郎(1886 年—1965 年),以独具风格的小说创作获得突出成就并享有世界声誉。他小说中体现的“美”在日本文坛造成了前所未有的轰动。大正期的作品中完全没有涉及的“强者之美”,转入昭和期后遂随着尝试东洋回归再度将“一切美者即是强者”的世界刻画渲染。《春琴抄》则极致地体现了这一思想。谷崎通过塑造“春琴”女主人公的形象,不断融入“以美为强”的观念,试图实现他的东洋回归。本文将围绕《春琴抄》,从人物描写内容、故事背景以及语言等方面试图解释谷崎润一郎的美意识世界。此外,本文还将就谷崎作品中显现的西洋美的特性着手,试图说明谷崎文学骨子里依旧隐藏着对西方美的崇拜。
关键词:东洋回归;阴影美;关西移住;视觉丧失
西洋の頽廃美の要素を崇拝した谷崎は「蓼喰ふ虫」をきっかけとして、 西洋からはなれ、本格的に日本の伝統的な古典世界の中にその文学を展開 して「日本回帰」を試みるが、これが失敗に終わる。谷崎は、昭和期にな ると日本回帰とともに「美しいものは強者である」という世界を再び描い ている。その世界がよくわかる作品は「春琴抄」である。谷崎は、春琴と いう女性を造形し、「強者」としての女性美を描きながら、日本回帰を試み た。したがって、本文では、鮮烈な色彩に輝き、強烈な刺激をもたらす西 洋的芸術の世界を称賛していた谷崎が、日本回帰の際に西洋的な要素を完全に排除したのかという疑問を「春琴抄」(「中央公論」1933.8)において 究明しようとする。谷崎の日本美への転向は関西移住がきっかけになって いる。谷崎は「関西風のもの」に魅了され、「春琴抄」にその雰囲気を反映 させたが、実際は完全に日本的なものに回帰したとは言えず、基本的には やはり西洋的なものへの嗜好が潜在していることが伺える。谷崎は、日本 的な美、あるいは「陰翳美」をこの作品で表そうとするが、完全に払拭し 切れなかった。それはままごと遊びの枠組みによるサデイズムとマゾヒズ ムの世界には西洋的な要素が伺えるからである。谷崎の「春琴抄」におい ての日本回帰がどのように行われ、また「強者としての美」がどのように 再現されるのかについて述べていく。