要 旨:本稿は、間接受身文をめぐって、日本語の受身文の分類、間接受身文の意味的特 徴、構文的特徴、また、間接受身文の述語動詞に関する制約について、考察してみ た。その考察によって、間接受身文の特徴を明らかにし、中国人学習者を対象とす る日本語教育の現場で間接受身文の指導する際の注意点や教育方法などについて 提言してみたい。
本稿は五章に分けて考察した。第一章は研究の目的とその対象・方法である。第 二章では日本語の受身文の分類を整理し、取り上げたそれぞれの分類の妥当性また はその問題点について述べた。日本語の受身文は様々な角度から分類されてきたが、 その中で、「直接受身」と「間接受身」の二種類の受身文があることが共通して指 摘されている。本稿では日本語の受身文を直接受身と間接受身の二つに大別する。 第三章では間接受身文の意味的特徴について考察してみた。間接受身文は基本的に 被害・迷惑を表す表現である。具体的に、間接受身文の主語は自分のコントロール が及ばない出来事によって、やむを得ず、迷惑を受けるのである。筆者は小泉保他 編(1989)『日本語基本動詞用法辞典』から用例を分析し、「先に」のほかに、「勝 手に」などの副詞的要素を伴う間接受身文のグループが存在していることを指摘し た。そして、それらの副詞的要素は間接受身文の迷惑の意味を明示する表現として、 きわめて重要な要素として参加していることも指摘した。筆者の考えでは私たち日 本語学習者は間接受身文を適格に用いるために、その間接受身文の主語に対する迷 惑の意味を明示しなければならない。日本語の間接受身文を学習する時役立つ注意 点について提言してみた。また、間接受身文の意味的特徴と密接な関わりがある間 接受身文の構文的特徴について考察してみた。間接受身文の意味的特徴は被害性で、 被害に関する感情、気持ちを表すところにあるから、主語は被害・迷惑という感情 が持てる有情物や主観的な判断ができる有情物でなければならない。動作主も有情 物であることが多い。さらに、第四章では従来あまり取り上げられなかった間接受 身文の成立に関する動詞の制約を中心に考察を行った。筆者は小泉保他編(1989)『日本語基本動詞用法辞典』を利用して、728 語の日本語教育における基本動詞を 他動詞と自動詞に分け、間接受身文の成否を調べてみた。その結果、日本語教育に おいて基本動詞とされる動詞の中で間接受身文にならない(なりにくい)他動詞を138 語、自動詞を 70 語あげることができた。この研究は日本語教育の観点において間接受身文にならない(なりにくい)他動詞と間接受身文にならない(なりにく い)自動詞を明らかにした点で意義がある。第五章では本稿の考察をまとめた。