要 旨:美しい風土と四季に恵まれた「島国」日本は、きわだった文化の特異性を育てた。日本人の信仰 の世界は、これまで多くの学者が指摘しているように、重層性を一つの特色としている。神道や仏 教、儒教、キリスト教、またこれらのどの宗教カテゴリからもはみ出た民間信仰が、狭い日本列島 のなかに、いろいろな形で混在している。このことは、日本人にとってごくあたりまえの事実だが、 こうしたさまざまな宗教の信仰と行事が、一つの小さな地域社会のなかで、互い有機的な関係をも ちながら、全体として破綻のない調和性を日本人の生き方にほどこしている。このような独特な宗 教意識のあり方は、実に興味のそそることで、『日本文化史』を勉強していた時から日本人の信仰 に関心を持つようになった。
一方、日本文化史を考える際に絶対忘れてはならない大事なことは、なによりもまず自然が日本 文化のすべての前提であり、そこからやがて神道文化が生まれ、続いて外来の仏教文化もまたその うえに自ずから定着していったということである。要するに、自然と結びつかないものは、古来、 日本文化として定着しにくいものであり、日本の文化史は、尽きるところ、常に「自然第一義の文 化史」であるといってよかろう。したがって、自然論を抜きにして日本文化論は成り立たないし、 日本人の宗教心を考察する際にも、自然論を不可欠の前提とするべきだと思う。
小論は儒・釈・道三教が中国から日本に伝わってからの変容、日本人の自然に関する美学と日本 人の宗教心を研究しながら、儒・釈・道が日本人の美意識に与えた影響を究明してみたいと思う。 具体的に言えば、日本人の美意識は日本固有の神道と中国から伝わった仏教、道教、儒教の合作で あったことを明らかにしたいのが、本稿の宗旨である。
日本人の自然観が、多神教的な自然宗教の上に、仏教が中国を経由してつたわってから、仏教 の無常観の影響を受けたゆえ、神仏習合を前提とする「神と仏の自然観」となった。それを基盤と して、日本人の自然美感は神仏習合の美学で、それに道教と儒教からも深く影響され、結局日本人 特有の美意識がなり立ったのである。
美意識というものが、現代人の社会生活を精神面において豊かにするものとして存在するという ならば、日本人の内面における精神構造を研究することは実に重要なことだと言えるだろう。日本 人の美意識とその深層にある宗教心について考察することにより、日本社会と国民性を的確に捉え ることができ、異文化交流もよりよく行われるだろうと思う。それに、中国から伝わった宗教が日 本人の美意識に与えた影響を究明することにより、中日両国がどんな社会的な関係性を共有するかを究明することができるだけでなく、日本文化を理解する上にも、中日友好をさらに深める上にも、価値があると思う。
キーワード:美意識、儒・釈・道、自然観