要旨:松尾芭蕉と王維の詩句はともに優れた芸術性を以って高く評価されている。芭蕉は俳聖として、日本民族の「哀れ」という伝統的な美意識を受け継ぎながら、部分的に中晩唐の漢詩と禅林詩の影響をも受け、「侘び」・「さび」・「しをり」などのような蕉風理念を磨きだし、禅味に富んだ芸術性の極めて高い句風を確立した。芭蕉は禅の「閑寂」を価値と認め、それを作品のトーンとして生かそうと取り組み、禅による「静寂」を俳句に表出するように追求していく。一方、「詩仏」と称される王維は敬虔な仏教信者であり、彼の作品は蘇軾に「詩中に画あり、画中に詩あり」と評され、静謐な山水美を描く第一人者と知られる。その清新な自然美の創作は、熱心な仏教信仰とかかわりがあると言われる。王維の詩には、禅に連なる静寂な景趣を絵画的に描くところがよく見られ、「静」なる語が多用され、静慮に表出する禅味の美が滲み出ている。つまり、具体的な文芸表現に微妙な相違があるが、松尾芭蕉と王維の詩句には共に禅味の香りが漂うという点で、二者の芸術世界の異曲同工の趣が感じられる。
キーワード: 松尾芭蕉;王維;詩句;禅味
目次
要旨
中文摘要
第1章 はじめに-1
1.1 中日文化における禅の影響-1
1.2 松尾芭蕉と王維-1
1.3 松尾芭蕉と王維に関する先行研究-2
1.4 本研究の目的-2
第2章 松尾芭蕉と禅-3
2.1 旅からの俳聖-3
2.2 風雅のまこと-3
2.3 俳句の不易流行と禅-4
2.4 生命に対する悟り————古池から見る俳句-5
第3章 王維と禅-7
3.1 半官半隠の王維-7
3.2 山水詩人の王維-7
第4章 松尾芭蕉と王維との比較-9
4.1 審美眼の共通点-9
4.1.1 物我一如-9
4.1.2 動静相生-10
4.2 手法と表現上の異なり-11
第5章 終わりに-13
5.1 まとめ-13
5.2 特色と欠点-13
5.3 今後の展望-14
参考文献-15
謝 辞-16