要旨:日本の戦後における「無頼派」の代表的な小説家太宰治は、20世紀の日本近代文学の旗手と言える。太宰氏の代表作である『人間失格』と『ヴィヨンの妻』は日本の文壇に新しい風潮をもたらしたので、日本文学史においては重要な地位を占めている。太宰治は人並み外れの私生活を送り、38歳の若さで自ら命を絶った。こういう生き方は奥野健男によると「絶えず自己を破壊し、自己の欠如感覚を決してごまかさず、かえって深化させていく」ということである。しかし、実生活において、下降への道を貫いた太宰は文学創作の道において、「上昇指向」を選んだ。世人に素晴らしい才能を示し、数多くの名作を残した。本論文では、代表的な『人間失格』と『ヴィヨンの妻』の表れた太宰における下降指向と上昇指向を考察する。特に、彼の下降指向の原因を分析してみた。幼少時両親の愛の欠損は下降指向が形成される主因となった。家族から離脱したが、太宰は依然として反抗的行為を行うことで、両親に対して自己存在を確立しようとした。その一方、時代風潮は太宰作品風格の形成に大きな影響を与えた。同時に、文学に執着することで、作品から上昇指向も見出せる。「下降性」と「上昇性」の矛盾と統一を含みながら、太宰作品は世間を魅了し続けている。
キーワード:太宰治;人間失格;ヴィヨンの妻;上昇指向;下降指向
目次
要旨
中文摘要
第1章-はじめに-1
1.1 無頼派と太宰治-1
1.2-太宰氏への先行研究-1
1.3 本研究の目的-2
第2章 太宰の作品に見られる指向-3
2.1 下降と上昇指向-3
2.2 下降指向-3
2.2.1 小説のデカダン-3
2.2.2 太宰治の実生活-4
2.3 上昇指向-4
2.3.1 上昇的な芸術完成-5
2.3.2 太宰の抵抗精神-5
第3章 『人間失格』と『ヴィヨンの妻』をめぐって-9
3.1 この二つの作品を選ぶ理由-9
3.2 『人間失格』の下降と上昇-9
3.3 『ヴィヨンの妻』の二重指向-11
第4章 時代影響と罪の意識-13
4.1 指向への影響-13
4.2 時代の影響-13
4.3 罪の意識-14
第5章 おわりに-17
5.1 まとめ-17
5.2 今後の展望-17
参考文献-18
謝 辞-19