要旨:谷崎潤一郎は近代日本文学を代表する小説家の一人である。耽美派の代表として、作品が高く評価されている。その本人にも「文豪」「大谷崎」と称されている。『痴人の爱』は彼の転換期(極度の西洋崇拝の「悪魔主義」時期から日本の伝统的な「古典回帰」時期へと)で最高の作品であるといえよう。発表後一世紀後の今日でも、日本ないし世界中でたくさんの愛読者をもっている。主人公の河合譲治は西洋文明に憧れ、ナオミの「西洋式」の肉体に夢中になって、マゾヒズムになっても心から甘んじる。表面的に主人のように見えるが、最終的に爱の奴隷に転落し、徹底的に「痴人」になってしまった。
2015年に中国語に訳された『賢者の愛』が台湾で出版された時、本の表紙には「正面から文豪谷崎潤一郎を挑戦する」とあって、大きな反響を呼んだ。文芸評論家の清水良典も山田詠美を「確かに谷崎潤一郎の衣鉢を継ぐ資格を持っている」と高く評価した。『賢者の愛』のインスピレーションは『痴人の愛』から生まれてきたが、単にエロと言える『痴人の愛』よりもっと複雑である。主人公の高中真由子は、恋愛に対して、性欲的な満足感を求めるのではなく、精神的な融合を追求するのである。小さい頃から『痴人の愛』を熟読した真由子は「賢者モード」の養成の道を切り開いて、直己を一生懸命育てた。思った通りに、理想的な美男になった直己も真由子に深く惚れている。
本論文は先行研究に基づいて、主人公に対する分析を通じて、『痴人の愛』と『賢者の愛』の中で体現された「痴」と「賢」を解析してみる。同時に、作者の創作時代の背景が異なっているなどの原因で、社会背景の下で日本人の「痴」と「賢」に対しての認識を研究することを通じて、更に日本文化を深く理解し,中日友好と交流を促進するであろう。
キーワード:『痴人の愛』、『賢者の愛』、肉体機能、精神融合、西洋崇拝
目次
要旨
中文摘要
はじめに-1
1.谷崎潤一郎と山田詠美について-1
1.1谷崎氏と山田氏の紹介-1
1.2両者への先行研究-2
2.両作品の創作背景-3
2.1『痴人の愛』について-3
2.2『賢者の愛』について-3
3.両作品の主人公について-4
3.1『痴人の愛』の主人公について-4
3.1.1河合譲治-4
3.1.2ナオミ-6
3.2『賢者の愛』の主人公について-6
3.2.1高中真由子-7
3.2.2直己-8
4.日本人の目に見た「痴」と「賢」-8
おわりに-9
参考文献-11
謝 辞-12