要旨:現在日本の学校で海外帰国生徒が多く在籍する中で、本稿では中国帰国生徒の教育問題に注目し、彼らが学校でどういうふうに日本語を学んでいるか、またどういう状況に置かれているかについて、以下の4章で論じている。
第1章は、帰国・入学までの経緯と問題点に関して述べたものである。政府として帰国後のサポートはもちろんのこと、帰国前の情報提供も必要で、待遇上も国費・私費帰国によって不公平が生じ、中には日本語教育を受けられない人もいるので、行政の対応の仕方には問題がある。そして、学校への編入問題についても、もっと柔軟な受入れ体制が必要である。
第2章は、学校教育の実態とあり方に対して述べたものである。ここでは、まず意識調査の結果に基づいて、帰国生徒が学校生活でどういう悩みを持っているか、適切な対応を受けているかどうかなど、日本の学校教育の問題を考えながら、教師自身の問題や対応の仕方について論じている。そして、学校は彼らをどう受入れ、日本人生徒にも異文化をどう触れさせ、共存・共生を図っていくかについて、学校での実例を取り上げ、国際理解教育の重要性を強調した。
第3章は、帰国生徒のための日本語教育に関して述べたものである。この章で、まず先行研究を見ながら児童の言語習得の特徴と注意すべき点を考え、帰国生徒にとって「第2言語教育」である日本語教育のあり方について論じた。帰国生徒の日本語教育と勉学上の問題を見ながら、日・中言語の対照研究の遅れを認識すること、コミュニケーション行動学習の大切さと媒介語の使用の必要性を提唱した。そして教授法と教材開発に関して、学校での例を参考にし、問題点などについて考えた。
第4章は、帰国生徒のアイデンティティに対して述べたものである。ここでは、まず帰属意識と母語との関連性を考え、アイデンティティを保つためには母語保持教育の重要性 を強調した。また二つの学校の母語教育を参考にしながら、その特色と問題点について考えた。そしてアンケートによる帰国生徒の帰属意識を紹介し、その背景にどういう社会問題が存在するかについて論じた。
以上で述べてきたことの改善策と課題について、まず帰国生徒教育に「問題意識」を
持つことや、早急に専門的な日本語教師を現場に派遣すること、母語保持のために中国人講師を受け入れること、そしてネットワークを強めていくこと、学校教育の見直しなどを取り上げ、結論としてまとめ、国際社会の実現に向けての展望へと結び付けている。